『響きの科学』は、音楽に触れたことある人なら楽しく読める科学
音楽についての本当のことをそろそろ知っておきたいと、ふと思った。
小さい頃ピアノを習っていた。当時は、「感覚」重視だった。色々と深く考えずに、ただ与えられた教則本の曲を次々とこなしていた。優しい先生から合格のシールをもらうのが嬉しかった。それなりに上手くはなったけど、どことなく自分のものにできていない感があり、ピアノ自体をあまり楽しめなかった。
約15年のブランクを経て、ピアノを再開し始めた。以前の方がうまく弾けているのかもしれないが、音楽は自分の意思ではじめればとても楽しい。(←これは将来子供が生まれた時覚えておきたいポイントである。それでもピアノは小さいうちに習わせる価値があるから、迷うところである)
楽しさと同時に、以前重視していた「感覚」の裏付けが欲しくなる。
長調は明るくて、短調はちょっと怖いと習ったし、実際そう聞こえる。それはなぜなのか?ただの音階の並びなのに、雰囲気とか気分まで規定できるのって、不思議じゃない?
和音についても、なぜ気持ちいい響きと、ちょっと嫌な響きがあるんだろう?
そもそも、世の中には色々な音があるのに、音楽になりうる音、ただの雑音があるんだろう?
そう思ったのが、この本を読んだきっかけである。
物理学者兼ミュージシャンのジョン・パウエル氏が、音の出る仕組み、楽器、音階など音楽にまつわる事象を追求する本だ。
物理学という一見堅苦しい事象を取り扱いながら、著者の「音楽を通じて人生を楽しむ」、というスタンスが、読んでいて気持ちいい。
例えば、ギターの弦が鳴る仕組みは、弦の気持ちになって解説している。弦は、引っ張られて不快な思いをしたから、逆方向に急いで戻ろうする。しかし、勢いがつきすぎて止まらなくなるから、エネルギーが尽きるまで動き続けなければいけない…と。どこか哀れで可愛らしい弦の姿。
他にも、著者のユーモアやお茶目さが端々に現れており、クスッと笑ってしまう。
そして、私も含め、音楽に触れたことがある人なら、抱くであろう疑問、「和音と不協和音の違い」「音階の仕組み」「長調と短調の起こり」に、科学と歴史の両側面から答えてくれる。
理系でなくても、音楽に触れたことのある人であれば、「ああ、あれってああなんだ」と興味深く読むことができる。
「ああ、あれってああなんだ」と思う瞬間って、勉強や読書で得られる一番の収穫だと思う。
余談だが、ピアノで隣り合う鍵盤の音は不協和音になるが、間が空いていると和音になる。
これって、今でいう「ソーシャルディスタンス」に似ている。
人と人も、本来間隔を開ける必要があるのかも。
その方が、一人一人が自立しつつ、調和の取れた響きが作れるだろうから。