にゃほにゃほ読書ブログ

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本屋大賞に込められたメッセージ〜『流浪の月』を読んで〜

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本屋大賞に選ばれた本なので、読んでみた。

そもそも本屋大賞とは、本が売れないこの時代に、顧客のことを一番よく知る、書店員からの投票で「お客様に勧めたい」と思った大賞とのこと。

(参照:本屋大賞とは | 本屋大賞

 

すなわち、書店員が「もっと本を読んでほしい!」「本の良さに気づいて欲しい」と思って、選ぶ作品であるとも言える。1冊本を読むことで、その本が面白かったら、もっと別の本も読んでみたくなる、本をもっと読まなきゃな、と思うようになることってある。そうやって、より多く書店に足を運ぶようになったら書店員冥利につきると言うものだ。

 

この作品は、まさに物語の力、を感じさせるものだった。

あらすじをざっくりと説明する。主人公は、更紗(さらさ)という女の子。幼い頃、預けられていた家庭で上手くいかず、19歳の文(ふみ)という青年と出会い、彼の家でしばらく過ごす。それはとても自由で楽しい時間だった。しかし、文は女児誘拐容疑で逮捕される。更紗は優しかった文を大人になっても想い続けるが、周りの人は「かつて誘拐されたことがある女子」として同情する・・・。というもの。

 

描かれるのが、「周りの人の善意」と「本人の気持ち」のすれ違い、である。更紗が、どんなに文は優しかった、と言っても、職場の人や彼氏は、かわいそうだ、という反応しかしない。更紗のことを、ストックホルム症候群だと思っているのだ。(「ストックホルム症候群」とは、誘拐事件や監禁事件の被害者が、恐怖のあまり加害者との連帯意識を持ってしまう状態のこと。)

 

ここで私は、「ああ、やっぱ本は、特に物語は読まないとな」と感じた。

想像力を、育てなければ・・・・と思ったのである。

今、様々なニュースがテレビとか、ネットで溢れている。

報道番組が、事実(一旦信じたい)を伝えて、ワイドショーが事実の点と点を線でつなぎ、ネットやSNSが、それを好きなように解釈する。

その時、本当は何が起こっていたのか?本人たちの気持ちは、どうだったのか?そんなのは、置いてきぼりである。

 

ある事象に関して、だいたい同じストーリーが語られて、納得するような教訓が得られる。

例えば、不倫した芸能人はやめるべき。不倫された人は完全にかわいそうだ、とか。女児を誘拐したのはその人がオタクだからだ、とか。

過去起こったストーリーと同じように、その人の頭の中で組み立てたものを、今の事象にも当てはめようとしてしまう。反対の意見は、当事者からであっても受け付けない。例えば、不倫された人、した人がどんな釈明をしようとも、「そんなの言ったって許されない」「夫、または妻に、洗脳されてるからそう思ってるだけ」と、はねのける。一番大事な、当事者の話を聞こうとしていないのだ。

 

かわいそう、という善意さえ、当事者とずれていれば、その人を追い詰めるものだと思う。それぞれの人に、それぞれの人生があるのだ。

 

たくさんの本を読む人ほど、人の分だけ人生があることを、理解することができる。

そのことを書店員さんは、伝えたかったんじゃないか、と勝手に思ってる。